すべてのものは悪にあらず。善にもあらず。われはなし。われはなし。われはなし。われはなし。われはなし。すべてはわれにして、われと云はるゝものにしてわれにはあらず総ておのおのなり。われはあきらかなる手足を有てるごとし。いな。たしかにわれは手足をもてり、さまざまの速なる現象去来す。この舞台をわれと名づくるものは名づけよ。名づけられたるが故にはじめの様は異らず。手足を明に有するが故にわれわりや。われ退いて、われを見るにわが手、動けるわが手、重ねられし二つの足をみる。これがわれなりとは誰が証し得るや。触るれば感ず。感ずるものが我なり。感ずるものはいづれぞ。いづちにもなし。いかなるものにもあらず。いかなるいかなるものにも断じてあらず。
見よ。このあやしき蜘蛛の姿。あやしき蜘蛛のすがた。
いま我にあやしき姿あるが故に人々われを凝視す。しかも凝視するものは人々にあらず。我にあらず。その最中にありて速にペン、ペンと名づくるものを動かすものはもとよりわれにはあらず。われは知らず。知らずといふことをも知らず。おかしからずや。この世界は。この世界はおかしからずや。人あり、紙ありペンあり夢の如きこのけしきを作る。これは実に夢なり。実に実に夢なり 而も正しく継続する夢なり。正しく継続すべし。